4日間ほど顔を見せなかった男あるじが庭に出てきた。どうやらグアムからご帰還遊ばしたようだ。どうりで疲れたような惚けた顔をしている。きっと、グアムでおもいきり食べ、しゃべり、泳ぎ、そして歩き回った顔だ。若者と違い年寄りは疲れがまともに現れる。歩き方さえぎこちなくびっこを引きそうだ。そこで、足でも痛めたのですかと尋ねると、男あるじは、「うーん、まいったよ。グアムまでのフライトは快適だったのだが、入国に2時間も要し、その間立ちっぱなしだったので、ついに膝と腿を痛めてしまった。到着は午後3時頃だったのだが、この時間帯には次から次へと飛行機が到着、そのたびに200人ほどがはき出されてくる。みるみる入国エリアは人で埋まってしまったというわけだ。あまつさえ、ここは米国の施政下にあるので、顔写真と手の指紋がとられるので入国手続きに時間を要する。窓口を全部開けばよいのに休んでいる窓口もあり、余計に始末が悪い。それでも皆辛抱強く耐えていたのには感心した。多くは日本人で、韓国人と中国人も混じっていたようだった。ここ、グアムの空港の混雑は日常化しているという。足は痛くなるし、ホテルで落ち合う約束した時間は迫るしで大変な思いをした。夜中に到着した人も1時間近く入国に要したそうだ。これでは世界の観光地の名が泣くというものだ」と不満をのっけからぶちまけた。
 よほど、腹に据えかねたのだろう。アメリカへの入国では指紋採取や顔写真撮影があることくらいわかっていただろうに。そういえばESTAはどうなったのかと問うと、
「うーん、それも腹立たしいことのひとつだ。せっかく1400円も払ってESTAの手続きをしたのに役立てなかった。というのも、ESTAの窓口がひとつあり、空いていたのに、なんと見逃してしまったのだ。早く気がついていれば、もっとスムースに手続きが終わったものを。思い出すだけに腹が立つ。だいたい、空港の案内が不親切なのだ」とまくしたてた。
 ESTAとは、Electronic System for Travel Authorizationの略だそうで、あらかじめパソコンなどで名前、住所、生年月日、パスポート番号、滞在先などを申請し、お金を払っておくと、簡単に入国手続きが済むというシステムだとう。吾輩は、海外なんぞに行ったことがないので不案内だが、出国より入国が面倒らしい。危険人物が入ってくるのを防ぎたいというのは理解できるというものだ。そっと、男あるじの顔をみやると、いまだに憤懣やるかたなしといったふうだ。そこで、吾輩は、入出国はおいておいて、グアムの旅そのものはどうでしたかと水を向けると、
「うん、それは楽しかった」と男あるじは即答した。そして、続けて、
「ホテルはタモン地区にあり、ロビーからは白い浜と紺碧の海が見渡せた。パシフィック・アイランド・クラブという名のホテルで、敷地内に専用ビーチ、プール、テニスコート、ビーチバレーコートなどがあって、ここだけで遊びを満喫できるように仕組まれていた。もっとも、われわれは歳がいっているので、泳いだり、椰子の木陰で昼寝をしたりがせいぜいだった。それにしても、日本や韓国の若者が子連れできて遊んでいたのには時代の流れを実感した。われわれが子育て中に海外に遊びに行くなんて思いもしなかったものだ。子ども達も小さい頃から海外での経験をさせることは良いことに違いない」と話し、吾輩のリードを掴んでよっこらさというふうで立ち上がった。

「南洋の空は高々海蒼し」敬鬼

徒然随想

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